転職の情報を探していると、「年収アップ」という言葉をよく目にします。ですが、実際に転職した人のうち、賃金が増えたのは何割なのでしょうか。この数字を載せている記事は、ほとんど見つかりません。厚生労働省の「雇用動向調査」には、転職した人の賃金が前職と比べて増えたか減ったかを集計した表があります。そこから分かったことを、そのままお伝えします。
結論:増えたのは4割、減ったのは3割
| 転職後の賃金 | 人数 | 割合 |
|---|---|---|
| 増加した | 1,828.0千人 | 40.8% |
| うち1割以上増加 | 1,263.2千人 | 28.2% |
| 変わらない | 1,140.1千人 | 25.5% |
| 減少した | 1,389.4千人 | 31.0% |
| 不詳 | 118.2千人 | 2.6% |
| 計 | 4,475.9千人 | 100.0% |
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査」第13-2表をもとに当サイトで算出。対象は転職入職者(就業経験があり、調査時に在籍していて、前職が雇用者だった人)。全産業・男女計の数字です。
転職して賃金が増えた人は10人に4人。減った人は10人に3人です。残りの2.5人は変わっていません。
「1割以上増えた」と言える人に絞ると28.2%。つまりはっきり待遇が良くなったと感じられるのは、4人に1人強ということになります。
この数字は、転職を否定するものではありません。ただ、「転職すれば年収が上がる」という前提で動くと、3割の側に入る可能性があることは、先に知っておいたほうが判断しやすくなります。
1. 年齢によって、結果が変わる
全体の平均よりも、はっきりした傾向が出たのは年齢別の集計でした。
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査」第13-2表(全産業・男女計)
45〜49歳までは「増えた人」が多い
20代前半では、増加した人が55.2%、減少した人が17.5%。3倍以上の差があります。この差は年齢とともに縮んでいきますが、それでも45〜49歳の時点では増加41.1%、減少30.1%で、まだ増加のほうが多い状態です。
50〜54歳で、逆転する
ところが50〜54歳になると、増加29.4%、減少42.0%と関係が入れ替わります。この年代では、転職して賃金が下がった人のほうが多くなります。
60〜64歳ではさらに開き、減少が54.3%。ただしこの年代は定年後の再雇用による転職が多く含まれるため、事情が異なります。純粋にキャリアの選択として意味を持つ分かれ目は、50代前半だと読めます。
2. 薬剤師の年収がピークを迎えるのも、50代前半
ここで、もうひとつの統計と重ねてみます。
当サイトが「薬剤師の年収は何歳でいくら?」で集計したとおり、賃金構造基本統計調査から算出した薬剤師の推定年収は、50〜54歳の744.7万円がピークでした。
| 年齢階級 | 薬剤師の推定年収 (賃金構造基本統計調査) | 転職で賃金が 増加した人(全産業) | 転職で賃金が 減少した人(全産業) |
|---|---|---|---|
| 30〜34歳 | 564.4万円 | 48.6% | 29.0% |
| 35〜39歳 | 614.1万円 | 43.5% | 23.8% |
| 40〜44歳 | 646.1万円 | 44.9% | 27.4% |
| 45〜49歳 | 667.2万円 | 41.1% | 30.1% |
| 50〜54歳 | 744.7万円(ピーク) | 29.4% | 42.0% |
出典:年収は厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」(職種)第5表、賃金変動は「令和7年雇用動向調査」第13-2表。いずれも当サイトで算出。年収と賃金変動は別々の調査であり、直接の因果関係を示すものではありません。
年収が最も高くなる年代と、転職で賃金が下がりやすくなる年代が重なっています。
これは考えてみれば自然なことです。現職での積み上げが大きいほど、それを上回る条件を新しい職場で提示してもらうのは難しくなります。勤続年数に応じた手当や、その職場での役職がリセットされる分、同水準を維持すること自体のハードルが上がります。
ただし、この2つの統計は別々の調査です。賃金変動のデータは全産業のものであり、薬剤師だけを取り出した数字ではありません。「薬剤師も50代で下がる」と断定できるデータではない点は、正直にお伝えしておきます。傾向として頭に置いておく、という使い方が適切です。
3. 産業別に見ると、振れ幅が違う
雇用動向調査は産業別にも集計されています。薬剤師が多く働く産業を取り出しました。
| 産業 | 増加 | 変わらない | 減少 |
|---|---|---|---|
| 全産業 | 40.8% | 25.5% | 31.0% |
| 医療業 (病院・診療所) | 41.4% | 19.5% | 36.7% |
| 小売業 (調剤薬局・ドラッグストアを含む) | 38.6% | 21.8% | 28.5% |
| 製造業 (製薬企業を含む) | 41.4% | 26.0% | 30.9% |
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査」第13-1表をもとに当サイトで算出
目立つのは医療業の「変わらない」が19.5%と低いことです。全産業の25.5%と比べると、6ポイント少ない。その分が増加と減少の両方に振り分けられています。
つまり医療業では、転職すると賃金が動きやすいということになります。上にも下にも振れる。一方で小売業は減少が28.5%と最も低く、変動が比較的おだやかです。
「動きやすい」ことは、良いことでも悪いことでもありません。ただ、病院からの転職・病院への転職では、条件面の確認をより丁寧にしたほうがよいという判断材料にはなります。
4. そもそも、みんな何を理由に辞めているのか
同じ調査には、転職した人が「前の勤め先を辞めた理由」も集計されています。医療・福祉分野の数字を、全産業と並べてみます。
| 辞めた理由 | 全産業 | 医療,福祉 | 医療,福祉 (女性) |
|---|---|---|---|
| その他の個人的理由 | 20.4% | 24.5% | 26.9% |
| 職場の人間関係 | 10.3% | 12.8% | 15.4% |
| 労働条件が悪い | 10.8% | 9.7% | 10.3% |
| 定年・契約期間の満了 | 12.8% | 8.7% | 6.6% |
| 収入が少ない | 9.3% | 7.2% | 6.4% |
| 会社の将来が不安 | 5.5% | 5.3% | 4.2% |
| 仕事の内容に興味を持てず | 4.9% | 5.0% | 5.3% |
| 能力・資格を生かせず | 4.6% | 4.4% | 5.0% |
| 結婚・出産・育児・介護 | 3.0% | 5.8% | 6.4% |
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査」第12表をもとに当サイトで算出。「その他の理由(出向等を含む)」「会社都合」は表から省略しています。
内容の分からない「その他の個人的理由」を除くと、医療・福祉で最も多い理由は「職場の人間関係」の12.8%でした。「収入が少ない」の7.2%を大きく上回っています。女性に限ると15.4%で、差はさらに開きます。
転職サービスの広告では年収アップが前面に出ますが、実際に人が動いている理由は、収入より人間関係のほうが多いというのが統計上の姿です。
また、結婚・出産・育児・介護を理由とする離職は、医療・福祉が5.8%と全産業の3.0%の約2倍でした。女性比率の高い分野であることが表れています。この点は「子育て中の薬剤師の職場選び」で詳しく扱っています。
5. 選んだ理由の1位は「資格を生かせる」
同じ表には、「現在の勤め先を選んだ理由」もあります。こちらは全産業との違いがさらにはっきりしました。
| 選んだ理由 | 全産業 | 医療,福祉 |
|---|---|---|
| 能力・個性・資格を生かせる | 16.0% | 24.4%(1位) |
| 仕事の内容に興味があった | 24.7%(1位) | 20.1% |
| 労働条件がよい | 15.4% | 14.6% |
| 通勤が便利 | 8.7% | 12.5% |
| とにかく仕事に就きたかった | 8.5% | 5.2% |
| 収入が多い | 6.7% | 5.3% |
| 会社の将来に期待できる | 3.3% | 1.8% |
出典:厚生労働省「令和7年雇用動向調査」第12表をもとに当サイトで算出
医療・福祉で職場を選ぶ理由の1位は「能力・個性・資格を生かせる」の24.4%。全産業の16.0%を8ポイント上回り、順位も1位と3位で入れ替わっています。資格職ならではの結果といえます。
一方、「収入が多い」は5.3%しかありません。20人に1人です。
「通勤が便利」が12.5%と全産業より高いのも特徴でした。国家資格があり、勤め先が地域に分散している職種では、職場の場所そのものが条件の一部になっていると読むことができます。
このデータを見るときの注意点
ここまでの数字には、必ず押さえておくべき前提があります。
雇用動向調査に「薬剤師」という区分はありません
この調査は産業別・職業別の集計で、薬剤師という職種を取り出すことができません。しかも薬剤師は、働く場所によって別々の産業に分類されます。
| 働く場所 | 日本標準産業分類での扱い |
|---|---|
| 病院・診療所 | 医療,福祉 → 医療業 |
| 調剤薬局・ドラッグストア | 卸売業,小売業 → 小売業 |
| 製薬企業 | 製造業 |
つまり「医療,福祉」の数字には、調剤薬局で働く薬剤師は含まれていません。逆に、看護師・介護職など他の職種が多く含まれます。本記事の数字は「薬剤師の数字」ではなく「薬剤師が多く働く産業の数字」として読んでください。
その他の前提
- 「賃金」は年収ではありません。前職と現職の賃金の増減を区分したもので、賞与や手当の扱いは回答者の申告によります
- 正社員だけでなく、パート・派遣・契約社員への転職も含まれます。正社員から時短やパートに切り替えた場合も「減少」に入ります
- 構成比には「不詳」(全体で2.6%)が含まれるため、増加・変わらない・減少の合計は100%になりません
- すべて全国の集計であり、地域差は含まれていません
まとめ:数字を知ったうえで動く
公的統計から見えたのは、次の4点でした。
- 転職して賃金が増えた人は40.8%、減った人は31.0%
- 45〜49歳までは増加が上回るが、50〜54歳で逆転する
- 医療・福祉で辞める理由は、収入(7.2%)より人間関係(12.8%)が多い
- 職場を選んだ理由の1位は「資格を生かせる」24.4%。「収入が多い」は5.3%
これらは平均であり、個々の転職がどうなるかを決めるものではありません。ただ、「年収アップ」を目的に据えるかどうかを考えるうえでの土台にはなります。
統計上、多くの人が転職に求めているのは、収入そのものより「資格を生かせる環境」と「働き方の条件」でした。ご自身が何を優先するのかがはっきりしていれば、提示された条件が良いか悪いかも判断しやすくなります。提示額の見方については「薬剤師の年収交渉で確認すること」も参考にしてください。
あなたが優先したい条件は、どれですか
無料で診断をはじめる →9問・約1分・登録不要※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものであり、個別の年収や労働条件を保証するものではありません。統計値は調査時点のものです。最新の数値はe-Stat(政府統計の総合窓口)でご確認ください。実際の労働条件は必ず応募先の書面でご確認ください。
